人面草子

とにかくインパクトが強烈、それに尽きます。

三次もののけミュージアムなる所に行ってきたんですが、その中で琴線に触れたのが表紙に描かれた人面草子。(湯本豪一コレクション妖怪絵草紙に収録)

この本「妖怪絵草紙」の内容としては「各種妖怪本の紹介+人面草紙」なんですが、人面草紙の内容が本の半分以上を占めています。

表紙の触れ込みは「江戸の妖怪マンガ」とありますが、人面草紙自体の内容は、妖怪物ではなく普通の日常を描いた絵日記的な物。実際にあった出来事だけでなく、当時見聞きした内容の想像が絵になってたりして、今風に言うと「漫画家のblog」みたいな感じでした。

人面草紙自体は、刊行されたものではなく手書きの肉筆本です。また、江戸時代後期の斎藤月岑によるものであろうと推測されているが、確定的な情報は無い模様。

このひょうきんなデフォルメには「人面」という名称が付いてます。本の題名だけでなく、本の中でも「人面」と触れられています。

本の中では、全ての人が人面として描かれているわけではなく、普通の人物描写も混じっていて、その書き分けの条件は不明。人面は人を表しているのか、それとも「人面」という人外・妖怪を表しているのかそれも良く分からない。

ただとにかく「人面」の圧が凄くて、見てるだけで楽しくなります。

片仮名混じりの文章

あたまでうけて あしでける トンスツトンスツトン〳〵

基本的に絵日記なんですが、絵の中に今で言う吹き出しに書かれるような短い文章が、あちらこちらに書込まれています。

江戸時代の大衆文化では常識なのでしょうが、ひらがなとカタカナの使い分け(擬音や強調に片仮名を使う)が、既に今とほぼ同じ形で使われているんですよね。ちょっと驚き。

元々、ひらがなとカタカナは書物の性格によって純然たる使い分けがあって、ひらがなとカタカナを混ぜるような使い方はありませんでした。

外来語をカタカナ表記としてひらがな文章に混ぜたのは、新井白石(1657~1725)と言われています。Webでちらっと調べた限り、そう言う説が見られる…という程度で確定的な情報はなかったのですが、少なくとも江戸時代中期には、今のようなひらがなカタカナ使い分けが、もう存在していたようです。

絵だけではなく、あちらこちらに書込まれた短文を読んでいても楽しいです。その多くは台詞か状況説明ですが、一部は第三者的視点で突っ込みのようなものも有ります。

駄洒落

うらめしやなア ひやめしやなア

幽霊?らしき物が描かれているのですが、その下に書かれた文章が、すっごい下らない駄洒落なんですが、現代とあまり変わらない感覚で、なんか親近感が沸きます。

飛んで動いてる様を、たくさんの線を書き入れて表す表現方法も、既にこの頃からあったことが窺えます。

ロドス(ロードス)島の巨人像

いきなり西洋の話になるんですが、江戸時代には既に森島中良 編「万国新話」(1789)という本で、遙か遠いエーゲ海の逸話が日本の世間に知れ渡っていたようなんですよね。

で、そのロドス島の巨人像が人面で描かれてるw

右上:ロツテス嶌銅人巨像
左上:あヽいヽこヽろもちた おならかてるとおとかいヽ
左下:なんたかくせい

なんで巨人が持ってるのが団子やねん、って感じですが、人面草子の中ではあちらこちらに団子が出てきます。団子、大好きだったんでしょうか?w

あと、おならをしている絵も多いですw この頃から臭いおならは「黄色い色」というのが共通認識だったんでしょうか?w

ポーズがいい

人面達のポーズに味があってとても良い。

江戸時代の書物に描かれている人物の「動き」を表すポーズって、どこか歌舞伎のように見栄をはった(切った)ようなポーズが多いように思います。

でも人面達のとるポーズは、とても自然とは言えませんが、上手く言えないのですがいかにもマンガ的に思えます。人面のひょうきんさととても良く合ってる気がします。

古代のマンガとして

昔のマンガというと、鳥獣戯画(マンガと呼ぶには異論もあるようですが…)が有名ですが所謂「日本画」的な細かに書込まれた画風で、以降のものでこのようにデフォルメされたキャラクターが出てくる作品を、個人的には見たことが有りません。

歴史上では、幕末に黒船が来た(1853)以降に西洋文化(コミック)の影響を受けた「ポンチ絵」あたりから、デフォルメ化された絵が見られるようになったようです。

しかし、人面草子はそれよりもさらに25年ほど前の文政10年頃(1827〜28)に書かれたとされています。

肉筆本であったのが残念です。これが草紙として刊行されていれば、江戸後期のマンガ(戯画)文化に大きな影響を与えていたのでは?と思ってしまいます。


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